外食業での特定技能外国人はどれくらいで戦力になる?

外食業における「適応期間」と「育成の実態」


人手不足が深刻化する外食業界において、即戦力となる外国人材——「特定技能外国人」への注目が高まっています。
とはいえ、初めての採用となると「本当にすぐに戦力になるのか?」「どれくらいで任せられるようになるのか?」という疑問もつきものです。

本記事では、農林水産省が公開する事例データをもとに、外食業における特定技能外国人が現場に適応し、戦力として活躍するまでの実態とポイントをわかりやすく整理しました。

1. 特定技能外国人の適応期間と戦力化までの一般的な傾向

即戦力としての採用

特定技能制度では、一定の日本語能力(N4以上)と業務に関する技能試験に合格した人材を採用するため、基本的には「即戦力」として期待されています。多くの事例では、採用後すぐに基本業務を遂行できることが前提となっています。

実際には、採用経路によって大きく3つのパターンに分かれることが確認できました:

  1. 留学生からの移行 - アルバイト経験があるため、採用後すぐに戦力となる
  2. 技能実習生からの移行 - 既に基本スキルを身につけているため、即戦力として活躍
  3. 新規採用 - 基本的なスキルはあるが、実務に適応するまで数ヶ月の期間が必要

2. 実際の事例にみる適応期間と戦力化

ここでは農水省がまとめた実際の事例をもとに考察してみましょう。

事例1: 中華料理店での採用事例(4ヶ月で戦力化)

農林水産省の公表事例では、ベトナム出身の26歳男性が中華料理店で特定技能として働き始め、日本人スタッフによるOJT(実地研修)を受けた結果、4ヶ月後には厨房で単独調理ができるまでに成長した事例が紹介されています。

努力家であり、日本人スタッフに付いてOJTを受け、4か月後には厨房で単独で調理に従事できるまでになっている。

引用元:農林水産省1

この事例では、新規採用でも約4ヶ月で一人前の調理スタッフとして戦力化されました。

事例2: 日本料理店での採用事例(約1年で戦力化見込み)

韓国出身の特定技能外国人が日本料理店で鉄板焼きの修行をしている事例では、見習い期間を経て、採用から1年後には客前で調理する「焼き手」として活躍する見込みであることが報告されています。

現在は鉄板焼きの焼き手の見習いだが、本人の努力次第では、来年には焼き手として客の前に立つこともありうる。

引用元:農林水産省2

この事例では、専門性の高い日本料理の場合、一人前として認められるまでに約1年の期間が設定されています。

事例3: 大手牛丼チェーンでの採用事例(3〜4年で管理職へ)

全国展開する牛丼チェーンでは、特定技能外国人の採用後、3〜4年で店長などの管理職にキャリアアップさせる計画が示されています。

特定技能外国人には、3~4年目には店長を務めてもらいたいと考えている。また、本人の意欲と能力によっては、エリアマネジャーや本部スタッフなどへの登用も検討している。

引用元:農林水産省3

この事例では、一般スタッフとしての適応や戦力化は比較的早く行われるものの、管理職としての役割獲得までには3〜4年の期間が想定されています。

3. 戦力化を早める教育方法と工夫点

調査した事例から、外食業における特定技能外国人の戦力化を早める共通の工夫として、以下のような教育方法が効果的であることがわかりました。

3.1 段階的な教育プログラム

大手外食チェーンなどでは、以下のような段階的な教育プログラムで体系的に業務を習得させています:

  1. 基礎教育 - 業務マニュアルや指示書を母国語で提供
  2. 実践訓練(OJT) - 日本人スタッフについて実務を学ぶ
  3. フィードバック - 定期的なミーティングで課題を共有し改善

日本語研修:関東のラーメン店では、店主自らが外国人スタッフ向けの日本語研修を実施し、言語の壁を低減させコミュニケーションを円滑にする取り組みを導入。

3.3 多言語対応の業務マニュアル

言語の壁を克服するため、初期段階では母国語と日本語の両方でマニュアルを用意する工夫が効果的です:

寿司店では、先代職人が外国人スタッフ向けに技術や仕事の流れを丁寧に教える教育プログラムを作成し実施。

3.4 同国出身者のロールモデルやサポーター配置

同じ国籍のマネージャーやスタッフを配置することで、スムーズなコミュニケーションと適応を促進しています:

同じ出身国のマネージャによりアドバイスを受けられるようにすることで、外国人にとって働きやすい体制となるよう心がけている。

引用元:農林水産省1

3.5 業務と生活の両面サポート

業務適応だけでなく、生活面のサポートを充実させることで、定着率と業務への集中力を高めています:

外国人には、人手が比較的集まりやすいが繁忙で仕事に追われる都心立地店ではなく、あえて郊外店でしっかり日本語や習慣を身につけてもらいつつ、店では中心スタッフとして働いてもらうことで本人のやる気向上を図る。農林水産省2

4. 業種別・役割別の戦力化までの目安

業種・職種 戦力化目安
ファストフード 接客・補助:1〜2ヶ月、店長:3〜4年
ラーメン・寿司 一人前調理:6ヶ月〜1年
高級日本料理 焼き手:1年〜、調理責任者:2〜3年
管理職(チェーン) 副店長:1〜2年、店長:3〜4年

収集した事例から、外食業の業種や役割によって戦力化までの期間が異なることが明らかになりました。

4.1 ファストフード・カジュアル店舗

  • 接客・調理補助: 約1〜2ヶ月
  • 単独調理: 約3〜4ヶ月
  • リーダー職: 約1〜2年

4.2 専門料理店(ラーメン店、寿司店など)

  • 調理補助・接客: 約2〜3ヶ月
  • 一人前の調理人: 約6ヶ月〜1年
  • 専門技術の習得: 約1〜2年

4.3 日本料理店(高級店)

  • 基本業務: 約3〜6ヶ月
  • 客前での調理: 約1年以上
  • 調理責任者: 約2〜3年

4.4 チェーン店での管理職

  • 店舗スタッフ: 約1〜3ヶ月
  • 副店長・主任: 約1〜2年
  • 店長: 約3〜4年
  • エリアマネージャー: 約4〜5年

5. 戦力化の早い特定技能外国人の特徴

  • 勤勉で学習意欲が高い
  • 日本でのアルバイトや技能実習経験がある
  • 日本語コミュニケーションがある程度できる
  • 日本文化への理解・適応が早い

6. まとめ:適応期間と戦力化のタイムライン

特定技能外国人が外食業で戦力化するまでの期間を、実際の事例から総合すると以下のようになります:

  1. 即戦力型(留学生・技能実習生からの移行): 採用直後〜1ヶ月以内
  • 既に日本での就労経験があり、業務に慣れているケース
  1. 短期戦力化型(新規採用・基本業務): 約2〜4ヶ月
  • 特定技能試験を合格しているが、実務経験が少ないケース
  • 中華料理店の事例では4ヶ月で単独調理可能に
  • ラーメン店の事例では2ヶ月で日本人と同等の能力発揮
  1. 専門技術習得型: 約6ヶ月〜1年
  • 専門的な技術や日本特有の料理技法を習得するケース
  • 日本料理店の事例では約1年で客前調理可能に
  1. 管理職育成型: 約3〜4年
  • 店長やマネージャーなど責任のある地位を目指すケース
  • 大手外食チェーンでは3〜4年で店長登用を計画

特定技能外国人は、制度上は即戦力とされるものの、現場への適応には一定の期間が必要です。
しかし、計画的な教育と支援体制を整えることで、2〜4ヶ月で日本人スタッフと同等の戦力として活躍する事例も多数存在します。

人材育成の観点では、日本語の習得がカギではありますが、日本語・業務スキルだけでなく、文化的な適応や生活支援もセットで考えることが、早期戦力化と定着のカギとなるでしょう。

近年では、外国人材の教育方法も洗練されてきており、多言語マニュアルやOJTプログラムの改善によって、さらに適応期間を短縮する取り組みが広がっています。

▶ 参考資料